私たちの走る理由|第0回
「一緒に、名古屋ウィメンズマラソン走ろうよ! ティファニーもらえるよ♪」
今から10年ほど前のこと。当時の職場の同僚から、そんなお誘いを受けていた。
当時の私は、隙あらば仕事の合間においしいものを食べ、飲んで、たまに合コンをし、たまにホットヨガに行く、どこにでもいる普通のアラフォー女。
何をもって、フルマラソン、しかもわざわざ名古屋まで2泊3日で走りに行くという苦行につきあわなければならないのか。
ティファニーが欲しいなら普通に買うわ!
意味わからん!
本人の前でも、そんなことを言った記憶がある。
それでもめげないその同僚は、何度も誘ってきた(笑)。
そのたびに「名古屋なんて行かないし、そもそも走んないし、誘うなら他をあたって」と、冷たくあしらっていた。だって、本当に興味がなかったから。
彼女は、なかなかのマイペース。そんなふうに冷たくあしらわれても、翌年には忘れてしまっているようだった(笑)。
私も結構マイペースな方なので、お互い職場を辞めた後も、マイペース同士でいい付き合いを続けている。そして、あの頃の会話が嘘のように、今ではラン友(ランニング友達)である。
あんなに友人の誘いを冷たくあしらっていた私が、なぜ走るようになってしまったのか。
そんな私の話から始まる「私たちの走る理由」第0回。いわば、この連載のプロローグである。
※名古屋ウィメンズマラソンの完走賞は、2025年大会からティファニーのネックレスから、バカラのタンブラーに変更されています。
走るきっかけなんて、そんなもの
私が走り始めたのは、45歳のとき。コロナ禍で仕事を辞め、鎌倉へ引っ越してきたばかりの頃だった。
時間だけはたっぷりあったので、鎌倉のお店を巡っては、おいしいものを食べる日々。気づけば体重も増えていた。
そろそろ何か運動でもしようかな。
せっかく鎌倉に住んでいるんだから、海沿いを走ったら気持ちよさそう。なんか、かっこいいし。
そんな、何ともミーハーな理由だった。
鎌倉なら、サーフィンやSUPなどのマリンスポーツもある。でも、初心者がいきなりウェットスーツやボードを揃えるのはハードルが高い。スクールに通ったり、誰かに教えてもらったりする必要もありそうだ。
それに引き換え、ランニングは手軽だ。とりあえず走れるシューズと、Tシャツに短パンがあればいい。
ちなみに、私が最初に履いていたのは、しまむらで買った2,000円か3,000円くらいのシューズだった。
ひとりで、好きな時間に、好きな場所を走れる。誰かと予定を合わせる必要もない。ひとり行動が好きな私には、ちょうどよかった。
とはいえ、最初から颯爽と海沿いを走れたわけではない。
始めたのは、ウォーキングに少し毛が生えたくらいの「スロージョギング」。会話ができるくらいの、苦しくならないペースで走る。キロ7分30秒から8分くらいだったと思う。
駅へ急ぐ早歩きのサラリーマンには、普通に追い抜かれる(笑)。
最初に走ったのは、自宅から稲村ヶ崎までの往復約7km。7kmを目標にしたわけではない。ただ、稲村ヶ崎まで行って帰ってきたら、そのくらいの距離だった。
もちろん、稲村ヶ崎ではしっかり休憩している。7kmを続けて走ったわけではなく、片道3.5kmほどを休み休み走ったのが最初だった。
由比ヶ浜の海を横目に、ゆっくり走る。これが、思いのほか気持ちよかった。
そして帰宅して思った。
「あれ? 私、意外と走れるじゃん!」
そこから少しずつ、走ることにのめり込んでいった。

45歳からでも、まだまだ成長できるらしい
走り続けられたのは、鎌倉という環境に恵まれていたことが大きいと思う。
海があって、山があって、神社仏閣や古い街並みもある。今日は海沿い、次は山の方へ。
由比ヶ浜に出て左へ行けば、材木座から逗子。右へ行けば、稲村ヶ崎に七里ヶ浜、そして江の島。左右で違う景色が味わえるのも、まさにプライスレスだ。

ひとりで走っていても、飽きることがなかった。
ちなみに、私が大好きな湘南の海沿いのランニングコースは、以前の記事でも詳しく紹介しています。
それから、自分の成長が目に見えたこと。
スマートウォッチで、走った距離やタイムを記録すると、昨日より長く走れた。前より少し速く走れたが見える化される。
最初の頃は、面白いくらい記録が伸びていく。45歳になっても、何十年もまともに運動をしていなくても、まだまだ成長できるんだ。これが、嬉しかった。
そして、Instagram。
走った記録を投稿すると、友人たちが「すごい!」「頑張ってるね!」とコメントや「いいね」をくれる。
最初は知り合いばかりだったフォロワーも、少しずつ増えていった。見知らぬ人まで応援してくれるようになる。そりゃあ、嬉しい(笑)。
そのうちランニング仲間もできた。練習会に参加したり、マラソン大会で会ったり、地方の大会へ「大人の遠足」と称して、みんなでワイワイ出かけたり。
ひとりで走る時間は今でも好きだけれど、仲間と走る楽しさも知った。気づけば、ランニングは私のライフワークのひとつになっていた。
気づけば、42.195kmどころか100kmまで走っていた
最初は、海沿いを走ったらかっこいいかも、なんて言っていた私。
あれほど拒否していた名古屋ウィメンズマラソンが、まさか私の初フルマラソンになるとはね。そのときの記録はこちら。
そして、初めてのフルマラソンを完走すると、今度はタイムを意識するようになった。サブ4.5、サブ4。目標を達成すると、また次の目標が欲しくなる。
一時期は、フルマラソンで3時間45分切りを目指していた。現在の自己ベストは3時間46分55秒。
惜しい! あと少し!
走った距離も、最長は100kmのウルトラマラソン。数年前の私が聞いたら、間違いなくドン引きすると思う。

でも、市民ランナーの世界にいると、こういうことが珍しくなくなってくる。
フルマラソンを完走したら、次はサブ5、サブ4.5、サブ4。距離も、42.195kmから60km、100km、120km……。どんどん長くなる(笑)。
もちろん、記録を目指すことは楽しい。私自身、やればやるだけ速くなることが嬉しくて、夢中になっていた時期がある。
そして、周りもどんどん先へ進んでいく。別に誰かに競争を強いられているわけではないのに、勝手に追い立てられているような気持ちになることがある。
走ることが好きだったはずなのに、いつの間にか数字ばかり気にするようになってしまう。そんなこともある。
走れなくなって、考えたこと
今年の夏、膝を故障した。それまで当たり前のように走っていたのに、突然走れなくなった。
最初は、少し休めば治ると思っていた。ところが、なかなか思うようには回復しない。
Instagramを開けば、今日も誰かが走っている。30km走った人。自己ベストを更新した人。次の大会に向けて練習を積んでいる人。
以前なら何とも思わなかった投稿が、少し眩しく感じることもあった。
でも、走れなくなったからこそ、改めて思った。
走れるって、ありがたいことなんだな。
速いとか遅いとか、何キロ走ったとか。そんなこと以前に、自分の足で好きな場所を走れる。それだけで、十分幸せなことだったんだと思う。
ちなみに、私は「亀ランナー」という言葉があまり好きじゃない。
サブ4をしているようなランナーでも「私なんて亀ランナーだから」と言っているのを見ると、ちょっとモヤモヤする。
「え、じゃあ私って何ランナーだろ?」とつい思ってしまう。なんだろ、カタツムリとか?
もちろん、悪気があって言っているわけではないし、速さの感じ方は人それぞれ。その人の目指すレベルが高いのだと思う。
でも、自分に対しての予防線なのか、誰かに対しての予防線なのか。謙遜なのかもしれないけれど、そこまで自分を低く見積もらなくてもいいんじゃないかなと思う。
なんなら私が高めの相見積もりを出してあげたい(笑)。
私自身、タイムを追いかける楽しさも知っている。でも、走る楽しさって、それだけじゃない。今は、そんなふうに思っている。
ところで、みんなはなんで走っているんだろう?
走れなくなって、自分にとっての「走ること」を考える時間が増えた。そして、以前から何となく気になっていたことが、ますます気になるようになった。
みんな、なんでそんなに走っているんだろう?
月間300km、400km、500km以上走る人。フルマラソンで自己ベストを目指している人。
月に100kmも走らないけれど、何年も走り続けている人。毎週のように大会に出る人もいれば、レースにはほとんど出ない人もいる。
そして、推しのために走っている、なんて人も(笑)。
でも、最初はみんな初心者だったはず。何かしら、走り始めたきっかけがあったはずだ。そして、走り続けている理由も、きっとそれぞれ違う。
SNSには、走った距離やタイム、レースの結果がたくさん並んでいる。
でも、その人がなぜ走り始めたのか、どうして今も走り続けているのか。意外と知らない。
いや、もしかしたら以前聞いたことがある人もいるかもしれない。でも、正直、覚えていなかったりする(笑)。
だったら、もう一回、知らないふりして聞いてみよう!そう思った。
特別な理由がなくてもいい。私みたいに「海沿いを走ったらかっこいいかも」なんて、ミーハーなきっかけでもいい。走り始めた理由と、今も走り続けている理由が違っていてもいい。
ただ、その人の話を聞いてみたい。
本当に、ただの私の興味本位である(笑)。
でも、話を聞いていくうちに、走ること以外の、その人の考え方や人生も少し見えてくるんじゃないかな。
読んでくれた人が「そういう走り方もあるんだ」と思ったり、自分が走り始めた頃のことを思い出したり。走らない人にも、走るのって意外と楽しそうだな、なんて思ってもらえたら嬉しい。
そんな読み物を、少しずつ書いていこうと思っている。
最初に話を聞いてみたい人
さて、この企画で最初に話を聞いてみたいのは、あの頃、何度断っても「一緒に名古屋を走ろうよ!」と誘ってきたマイペースな友人だ。
当時の私は、彼女がなぜそんなに走りたがるのか、まったく理解できなかった。
それから約10年。まさか自分が100kmまで走るようになるとは(笑)。
でも、考えてみれば、私は彼女がなぜ走り始めたのか、どうして走り続けているのかを、ちゃんと聞いたことがない気がする。
だから今度は、私から聞いてみようと思う。
「あなたは、なぜ走るの?」



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